正岡子規と「坂の上の雲」の感想文

寺本匡俊 1960年生 東京在住

鴎外荘  (第194回)

手元の資料で上手く見つからないのだが、森鴎外は何度か根津の子規庵に、病床の正岡子規を見舞っているはずだ。そのころの鴎外がどこに住んでいたのか知らないが、馬に乗ってきたという逸話をどこかで読んだ覚えがある。

鴎外も一時期、拙宅のそばに住んでいた。ドイツから帰国して以後のことで、駅名でいうとJRの上野と、千代田線の根津の間。うちから歩いて30分ぐらいのところで、現在そこは森鴎外旧邸が残り、また隣接して1943年に建てられて営業を続けてきた水月ホテル鴎外荘がある。私の散歩コースの一つです。


このホテルが閉館するという記事が、うちの新聞に載った。予定では今年5月末だという。理由は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、利用客が昨年同期比の一割に落ち込んでしまい、このままだと倒産して旧邸を保存する体力もなくなってしまうという辛い理由で、ホテルのほうを断念することになったらしい。

この病気はどこまで人の邪魔をするのか。緊急事態制限のあと、早朝の散歩と必需品の買い物以外は、仕事もキャンセル続きで自宅に閉じこもっていたのだが、そろそろ鬱屈してきたところに、この悲報。この週末すなわち4月17日(金)から18日(土)まで一泊の家族旅行でお邪魔になった。不要不急ではない。断じてない。表玄関の写真。


f:id:TeramotoM:20200417150858j:plain



この住居で鴎外は、私が高校生のときに読んだ出世作の「舞姫」や、短編「うたかたの記」を書いたとのことです。今はその旧宅を囲むようにホテルがあって、今回は和室にお世話になった。もっとも半日程度の滞在なので、食事と温泉と睡眠くらい。朝夕の和食、美味しゅうございました。

手入れの行き届いた庭にタケノコが頭を出している。このこじんまりした庭と、居宅内は宿泊者なら拝見できる。こういう時期なので、人影まばらだったが、常連客も多いそうで互いに無念なことでありましょう。

f:id:TeramotoM:20200417154745j:plain

f:id:TeramotoM:20200417153938j:plain


宿から歩いて十分ぐらいのところに、根津神社がある。ツツジの名所でいつもこの季節には大賑わいなのだが、今回はのんびり花を見て、順番待ちもせずお参りしてきた。旧邸の保存はまだこれからの手配だそうだが、無地終わりますよう心からお祈り申し上げます。もう少し落ち着いたら、久々に鴎外を読もう。


(おわり)


f:id:TeramotoM:20200419074751p:plain


f:id:TeramotoM:20200417153840j:plain

舞姫の碑  (2020年4月17日撮影)



.