正岡子規と「坂の上の雲」の感想文

寺本匡俊 1960年生 東京在住

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

幸徳秋水  (第28回)

軍艦の話ばかり話題にしていると軍国主義者かと思われては困るので、今日は正反対のテーマを取り上げる。愛読書の一つに丸谷才一著「文章読本」(中公文庫)がある。 その第十章には、文章に緒論・本論・結論と並び立てなくてよいという主張の実例として、幸…

春日  (第27回)

今日は少しややこしい話題から始めます。文庫本でいうと第三巻と第八巻の巻末に、それぞれ連合艦隊の幹部名や軍艦名のリストが載っている。前者は1904年2月の日露開戦時、後者は1905年5月の日本海海戦時である。1年3か月しか経っていないのに何故か。 編成上…

日進  (第26回)

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 阿倍仲麻呂 今回は格調高く始めてみました。この和歌は百人一首の中で私が一番好きな一首です。ただし正直なところ、純粋に文学作品として好きなのではなく、作者の人生がドラマチックだからだ。前回触…

つらい軍艦  (第25回)

文庫本第八巻の「運命の海」という章は、日本海海戦において両軍が相手の存在地点を確認し、日本の艦隊が敵前回頭して、露国艦隊が発砲を開始する場面から始まる。要は開戦だ。この途中に「春日、日進というのは、つらい軍艦であった。」という一文がある。 …

がらっぱち  (第24回)

幼少時の私は病弱で何故かすぐに熱を出し、幼稚園や小学校を数えきれないほど休んだ。あともう少しで進級できないほど欠席日数が多かった年もある。そういうときは仕方がないので寝転がって家にある本を読む。漫画は滅多に買ってもらえないため、いきおい祖…

若御前  (第23回)

前回の続きです。私が小中学生だった頃の日露戦争の代表的な陸軍の激戦地といえば、旅順・奉天と相場が決まっていて教科書にもそう書いてあり、無論そのこと自体に異論はない。 それでも一読者としての私にとって「坂の上の雲」における陸軍の登場場面のクラ…

鉄幹と晶子  (第22回)

今回はちょっと趣向を変えて、与謝野さんちの話題。もうずいぶん前のことで誰の文章だったか忘れてしまったのだが、その人がある日、与謝野家に伺ったところ、鉄幹先生が自宅の庭で、背中を丸めてしゃがみ込んでいる。 客が近寄ってみたところ、鉄幹は小さな…

無線機  (第21回)

今回は山本夏彦著「最後の波の音」の引用から始める。今日は引用ばっかりなのだが、昔の話をしているので仕方がない。この件は司馬遼太郎「明治という国家」にも出て来るので、ご存じの方も多かろうかと思う。引用、始め。 「これ以上の恋の手紙は稀だろう。…